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大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)4361号 判決 1955年6月01日

原告 辻吉株式会社

右代表者 辻吉太郎

右代理人 新具康男

被告 三和自動車運送株式会社

右代表者 井上剛

右代理人 杉原喜与人

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

理由

原告会社が縮緬生絹等の売買を業とし、被告会社が自動車による物品運送を業とする会社であること、原告会社が昭和二十七年七月十九日被告会社に対し被告会社大阪支店天満荷扱所から京都市中京区室町六角下る訴外楠絹織株式会社まで貨物一個を普通貨物として運送の委託をし、被告会社がこれを受託してその引渡を受けたこと、右貨物は被告会社の使用人小西藤次郎が配達中昭和二十七年七月二十一日午後三時十分頃京都市室町綾小路と室町六角との間で盗難に罹り滅失したことは当事者間に争いないところである。

証人下村泰三、同田中秀穂の各証言並びに被告会社代表者本人訊問の結果と、右各供述によつてその成立が認められる乙第三号証によると、被告会社は道路運送法第十二条に基き一般積合貨物自動車運送約款と称する運送約款(乙第三号証)を定め昭和二十三年八月七日付で運輸大臣の認可を受けたこと、右約款は被告会社の各営業所の人目につき易い場所に公示していることが認められる。原告会社が右約款を承知していたと認めるに足る証拠はないが、普通契約条款の性質上右約款が公示されているからには、相手方が右約款によらないことを表示せずして契約したときはたとえ契約当時その約款の内容を知悉しなかつたときと雖も右の約款によるの意思で契約したものと認むべきであり、原告会社が右約款によらないという意思を表示したと認める証拠はない以上原告会社として右約款による意思で運送契約をしたものと認むべきである。

原告代表者本人訊問の結果によりその成立が認められる甲第一号証、証人下村泰三の証言によりその成立が認められる乙第二号証、証人楠正太郎同安達喜助の各証言並びに原告会社代表者本人訊問の結果によると、本件貨物は原告主張の縫取縮緬銀直し二十七反でその託送当時の価格は内八反が一反に付き二万円、内十一反は一反につき二万四千円、内八反が一反につき二万八千五百円であり、当時普通品の縮緬の価格が一反につき四、五千円であることに較べると高級品であること、本件貨物の重量は約六貫容積は三才長さ巾共約三尺高さ約二尺であつたことが認められる。しかして運送約款第十六条によると金銀貨幣有価証券宝石美術品その他の高価品については、予めその品名品質数量及び価格を明告しなければ如何なる損害と雖も損害賠償の責に応じないと規定されておるが、高価品とは重量及び容積に比し高価なものを謂うのであり、右認定のような重量容積であるのにその価格が六十五万二千円にも及ぶ本件縫取縮緬銀直しは右運送約款第十六条に所謂高価品に該当するものと認むべきである。(商法第五百七十八条に所謂高価品にも該当する。)原告会社が右貨物につき価格等を明告しなかつたことは当事者間に争いないところであり、又被告会社が本件貨物が高価品であることを知り、又は知り得べかりしであつたから明告する必要はないとの原告の主張も未だ右事実を認めるに足る充分な証拠はなく、右主張は採用できないから、被告会社が原告会社の損害の発生につき悪意、又は重過失があつたか否かについて判断する。証人小西藤次郎(第一、二回)の証言によると、小西は事故当時一人で自動車を運転して荷物を配達していたが、前記繁華街である室町通で他荷物を配達している僅かな隙に窃取されたものであること、当時右荷物は荷台の中央から後方にあり縄を通して他の荷物と結んであつたが、右荒縄がきられたことが認められるが、未だ被告に善良な管理者の注意義務を著しく欠いた重大なる過失があつたと認めるに足る証拠はない。そうすると被告会社は原告会社に対し運送契約上の損害賠償の責はないわけである。

次に被告の不法行為の責任があるかについて判断する。右運送約款第十五条には被告会社は盗難によつて生じた運送品の滅失等の損害については被告会社に悪意又は重過失のない限りその責を負わないと規定されており、右規定は、被告会社の盗難による不法行為上の責任を運送約款により軽減したものと解されると共に公序良俗に反して無効のものとはいえない。しかして被告会社に重過失がないことは前認定のとおりであるから、被告会社とは不法行為上の責もないわけである。

よつて原告の請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担は敗訴の当事者である原告に負担させることとして主文のとおり判決する。

(裁判官 村瀬泰三)

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